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トリカブトの分類
Taxonomy of Aconitum


トリカブト属は、大きくレイジンソウ亜属とトリカブト亜属にわけられる。このうち、分類がやっかいなのは、皆同じような紫色の花をつけるトリカブト亜属のほうである。分類が難しいといわれるのは、変異が多く種の境界が明らかでなく、しかも、雑種を作りやすいからだ。学者の間でも諸説があるが、ここでは、近年のトリカブト分類のバイブルともなっているY. KADOTAのA Revision of Aconitum Subgenus Aconitum of East Asia(以下KADOTA'S Monograph)に従って、主な分類形質を取り上げてみた。
 
花の構造

各部の名称
トリカブトの花の構造は、一見とてもキクザキイチゲや、ウマノアシガタなどと同じキンポウゲ科には見えない独得な形をしている。帽子のような頂萼片は、英語ではヘルメット、日本語ではかぶとなどとも呼ばれる。KADOTA'S Monographでは「Helmet」が使われているので、本書の本文の中でも、日本語で「ヘルメット」の呼称を使っている。

花びらのような部分はじつは萼片・エゾトリカブト

花弁の構造
ヘルメット(頂萼片)のなかに隠れている花弁も、重要な分類のポイントになるので、花の構造の知識は分類にも不可欠だ。くるっと巻いた距の内側に蜜が隠されているので、花弁のことを蜜弁ともいう。

花弁は、萼片の中に隠れて、表からは見えない・オクトリカブト

 

主な形質

花弁の形
KADOTA'S Monographの検索表で、まず登場するのが、花弁の形である。距に向かって細くなってふくらまないグループ(細身型)と、額のように上部がふくらむグループ(額型)にわけられる。(左の写真の矢印の部分)細身型には、サンヨウブシやエゾノホソバトリカブトなどが含まれ、額型には、ヤマトリカブトやエゾトリカブトなど多くの種が含まれる。しかし、額型に属するはずのタンナトリカブトなどでも、細身型の花弁をもつものも多いようで、完全にすっきりした形質とはいえない面もある。

サンヨウブシ

オクトリカブト

 

花柄の有毛状態
花柄の有毛状態は、分類上重要で、しかも、花を分解したり根を掘ったりする必要もなく、手軽に調べられるよいポイントになる。大きくわけると、下の写真のように、3つのタイプにわけられる。かなり安定した形質ではあるが、雑種や雑種起源の種の場合には、不安定になることもある。さらに、毛の表面の状態も重要とされるが、顕微鏡での観察が必要なので、ここでは触れないことにする。
無毛・サンヨウブシ 屈毛・ハナカズラ 開出毛・ヤチトリカブト

ヘルメットの形
大きくわけて、フード形と円錐形にわけられる。また、くちばしの部分が長いか短いか、張りだすか張りださないかもポイントになる。しかし、これら形質も変異が大きく、同じ種でもさまざまな形がある。KADOTA'S Monographには、ほとんどの種で4-5程度の変異を示す図がつけられている。「この種はこの形」と言いきるのは難しいが、変異の幅をとらえておくことで、同定の助けになるだろう。

フード形・サンヨウブシ 円錐形・カラフトブシ  

 

葉形
同じように手のひら状に裂けているようだが、種によって少しずつちがいがある。環境によってもずいぶん左右されることがあるので、完全に安定しているとはいいがたいが、全裂か、深裂か、中裂かといったあたりは、ほぼ種によって決まってくる。林のなかに生えると切れこみが浅く、日当たりのよいところでは切れこみが深くなる傾向は多くの種で見られる。

中裂・サンヨウブシ 深裂・キタザワブシ
全裂・エゾトリカブト 全裂しさらに裂片が羽状に裂ける
・カラフトブシ

 

※参考文献
A Revision of Aconitum Subgenus Aconitum (Ranunculaceae) of East Asis, Yuichi KADOTA, Sanwa Shoyaku Company, LTD.,1987
「日本の高山植物」山と溪谷社,1988
「日本の野生植物」平凡社,1982

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Last update = 10/18/2000