9-6 フジ Wisteria floribunda

  5月の後半というのは独特のけだるさがある。それは大きなイベントが終わったあとの倦怠感や虚無感に似ている。「春はふけ春はほうけて」白秋はこの季節をそう表現した。
 早春一時に咲いた野の花は散り、あるものは枯れあるものは茎を伸ばし、野は一面緑に覆われる。早春の灰褐色と萌葱色が織りなすグラデーションに比べれば、やや単調だ。
 そんな頃、木に絡まってフジの花が咲く。強い日差しや湿った風を感じて、春が終わったのではなく、これから夏になるのだと思い直す。人生も中盤にさしかかった。


1993年5月28日 長野県浪合村 トプコンホースマン980 スーパーER180ミリF5.6 f16 1/8秒 ベルビア