8-2 森 Forest

  自転車で初めて北海道へ行った時は、雨と霧ばかりだった。開通したばかりの真新しい知床峠もほとんど視界がなかったと記憶している。その後何回もこの峠を越えたが、羅臼岳を目にしたのは1〜2度ほどしかない。
 雨男だからかもしれないが、体や荷物を雨から守るわずらわしさをのぞけば、雨も決してきらいではない。遠くの風景に目を奪われないだけ、小さな足もとの草木がよく見える。
 知床峠からは、眼前に大きく羅臼岳の勇姿が見えるはずだが、霧の日はダケカンバとエゾマツの混合林が、幾重にもグラデーションを描いていた。箱根越えで「不二を見ぬ日ぞおもしろき」と詠んだのは芭蕉だが、羅臼岳を見ない知床峠越えも、なかなかのものだ。


1994年6月9日 知床半島 ニコンFE2 タムロンSP90mmF2.5 f6.7 1/30秒 プロビア100