アイリッシュフルート奏者・ケルトの笛のhataoさんから、Ann Sakai「Feelings that Never Change」へのレビューが届きました。当事者にはなかなかできない俯瞰的レビュー。じっくり読んでいただきたくてSNSだけでなくここにアップします。
せっかくなのでAnnさんのセルフライナーノートも一緒に掲載して、Ann Sakaiスペシャルサイトになっています。
【やさしい気持ちになり、ホロリとして、元気がもらえる】
Feelings that Never Change レビュー
by ケルトの笛 hatao
ネイチャー・フォークという音楽ジャンルがある。愛知県豊橋市を拠点に音楽と写真で表現活動をする「いがりまさし」氏が提唱する、草花や山河といった自然に根ざした創作音楽だ。
フォークといえば、一昔前のフォーク・ブームを連想する人も多いだろう。反戦や平和運動という政治と結びついた音楽は一つの時代の象徴だったが、次の時代が明けると受け継がれることなく衰退してしまった。今はフォークの源流であるヨーロッパ伝統音楽が若者たちに人気だ。
フォークと伝統音楽。その二つがかけあって生まれたのが、ネイチャー・フォークだ。自然のありさまや日常から生まれた繊細な感情をアコースティック楽器で丁寧に描いてゆく。自然や日常というのは誰にとっても身近に常に変わらず存在するので、ネイチャー・フォークは世代・年代を超えて心に響く力強さを持っている。
シンガーAnn Sakaiさんのデビューとなる本作が、いがり氏の主宰する音楽レーベル「MAPLART」から発売されたのは偶然ではない。編曲からギターや笛やコーラスといった演奏まで全体的に「いがりまさし」サウンドでまとめ上げられ、Annさんに意気投合した伝統音楽寄りの音楽家たちが楽曲提供やゲスト演奏をして製作された本作品は、正統的なネイチャー・フォークの文脈にあると言える。
これまでの「MAPLART」レーベルの作品は歌詞のないインストゥルメンタル曲が主だったが、本作品では美しい草花や季節の風景、そして日々浮かぶ思いが、わかりやすい日本語の歌詞に乗って素直な声で歌われている。
ヴォーカルについては全体的に中高音域で柔らかく優しいトーンだが、よく聴くとそれぞれの曲に合わせて声色を使い分けており、「君へ」で聴かれるように中低音域も意外にしっかりと歌い上げている。ヴィブラートの少ない素直なシンギング・スタイルが、無垢な音楽の世界とよく合っている。
ヴォーカルとの共演はすべてアコースティック楽器で、ケーナのような音色を出すことができる改造型リコーダー「リケーナ」の渋い音色は単色に染まりがちな音楽に色彩感を与える。ヴァイオリンや笛のカウンターメロディは秀作揃いで、歌と楽器とのアンサンブルも聴き所の一つだ。
メロディはどれも印象的なものばかりだが、とりわけ「水の花火」と「卒業」は胸が締め付けられる切ないメロディだ。楽曲は5人が提供しあっており(ほか1曲は伝承曲)、それぞれの持つ個性がうまく調和し、聴き続けてもかつ飽きのないトラック構成になっている。
全体的なムードはピュア、センチメンタル、ロマンティックで、優しくつつみこまれるような音楽だ。桜や卒業など春にちなんだ曲が多いため、草花がいっせいに冬眠から目覚めるおだやかな初春の景色とともに聴くと、より深く音楽の世界に入り込めるだろう。
制作の経緯
島崎藤村の「初恋」が学生時代から大好きでいつかこれに曲をつけたいと思い作曲したのが今から6年前。
この曲をいつかはカタチに残したいと思いながら歌って来ました。昨年のコロナ自粛の際に作った
”2020春Inori”にSNSでバイオ リンの音をのせてもらったことから、櫛谷結実枝さんと親しくなり、昨年櫛谷さんが作られた曲に歌詞をつけて歌いませんかと言われ、作詞したのが「君へ」です。
当初櫛谷さんが今制作中のCDに入れる予定でしたが、他の曲が全てインストゥルメンタルなのに一曲だけ歌が入るのはバランスがおかしいということで、 せっかく作った曲がお蔵入りしそうになり、それなら私がCD作ります! と言ったのが2020年12月。そこからわたしの作り溜めた曲(作詞・作曲含め)の伴奏をいがりまさしさんに頼んだところ快く引き受けて下さり、トントン拍子に進み、この度のCD発売となりました。
楽曲紹介
1.2020春Inori
緊急事態宣言中の桜通りは毎年の宴会お花見と違い、誰もいなくてとてもさびしいものでした。
でも相変わらず満開の桜は見事な美しさで、それを見ていて出来た曲です。
2.風と花の詩
マリネッコさんのこの曲のメロディは目を閉じるとやさしい風と花達の喜びが浮かんでくるようです。
それを歌詞にしてみました。
3.美ら海エア
いがりまさしさんの作られた沖縄の海の曲ですが、最初にサビの歌詞が頭に浮かんで来て、この曲を聞くとその部分だけは自然に歌になって口ずさんでいました。このCDのジャケットは沖縄ではありませんが、豊橋の美ら海で撮影したもので、キラキラと光る水面に心が洗われます。
4.夏空に恋して
白馬五竜のお花畑コンサートに遊びに行ったときの思い出をもとにしたマリネッコさんの曲に、いがりさんとわたしで作詞しました。まさにフォークソングの世界です。
5.水の花火
マリネッコさんの作ったアガパンサスの花を水の花火としたとても大好きな曲です。この曲にまつわる話をきいて、是非歌詞をつけたいと思いました。大切な人を突然失い、悲しみに暮れながらもその清々しく美しい花の色に生きる強さをもらう。そんな歌です。
6.君へ
櫛谷結実枝さん作曲。 かつては一緒に過ごした大切な人なのに、もうずっと会えてなくて今はどこでどうしているのかもわからない。でも、ふと空を見上げた時、今はどうしているのかな、元気でいるかなと思ったりすることがあります。それを歌詞にしました。
7.桜の樹の下で
マリネッコさんが桜の花が待ち遠しい季節に作った曲。桜の樹の下でこれからの人生をそれぞれに誓い合ったり、約束したり、何があっても全てはその人生の糧になるのだということを英語で歌詞にしました。
8.卒業
作曲者の稲岡大介さんから、この曲を合唱曲にしたいと作詞の依頼を受けました。自分の中学、高校時代の思い出を詰め込んだ曲です。3月中にCD を完成、発売しようという目標は、この曲のためでもありました。
9.トネリコの森
ウェールズ地方に伝わる曲ですが、メロディがとても気に入っていました。原詞や訳されている方々の歌詞を参考にしつつ歌いやすいオリジナルの歌詞を作ってみました。
10.やさしいハーモニー
今から5年前に詞を作り翌年に曲をつけました。自然と私たちが共生して行くのに一番大切なのはそのバランスとハーモニーだと思います。音楽の原点は自然の音を真似ることでした。自然に生かされてその中で歌える喜びを表現しています。
11.初恋
島崎藤村作詞、高校時代から暗唱できる唯一の詩でした。
タイトルにこめた思い
「Feelings that never change 変わらない想い 」
このCDの曲の多くは今の時代の新しい曲という雰囲気ではありません。しかしながら、時代がかわっても年齢を経ても、やはり変わらない思いや、心の奥底にあるピュアな子供のような気持ちはふとした喜びや感動と共に甦ります。たとえば 美しい夕日を見た時、海がキラキラ輝いている時、爽やかな風を感じる時……。そんな想いを歌にこめました。