フォトエッセイ(野の花365日のクロモジより) |
少し高級な和食の料理屋に行くと,クロモジの材で作った爪楊枝がおかれていることが多い。材にほのかな芳香があるので,高級爪楊枝として好まれる。「くろもじ」といえば爪楊枝のことを指すことさえある。 山野では,花の時期以外は,あまり目立つところのない雑木だ。林冠をなすような高木ではなく,落葉樹林の中層を占める中ぐらいの樹木である。早春の頃,ちょうど目の高さか少し高いぐらいのところに,羽根突の羽根のような花序をぶらさげる。 展開しつつある葉の色はなんとも春らしい萌葱色である。霧雨にけぶる落葉樹林で出逢えばなおのこと,今年も忘れずめぐってきた春に,ありがとうと言ってみたくなるような色だった。
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【ひとくちメモ】 クロモジという和名は,樹皮に文字を書いたような黒い斑があることに由来するとか,宮廷で歯ブラシとして使われていた頃の女房言葉から来ているなど,の説がある。
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【見わけ方】 クロモジの仲間は,北海道南部から鹿児島県まで,よく似たいくつかの種が地域ごとに分布している。本州中部では,太平洋側にクロモジ,日本海側に葉が大型で裏面の葉脈沿いに軟毛のあるオオバクロモジ,西日本中心に花序の花数が3-5個と少ないヒメクロモジがる。 また,花期にはシロモジもよく似ているが,葉の先端が3裂するので展開すれば見まちがえることはない。
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