フォトエッセイ(野の花365日のセツブンソウより) |
この花を見るまでに,なんど冬枯れの野山をほっつき歩いただろうか。節分の頃の野山は,温暖な愛知県東部といえども,まだまだ花の咲く気配などまるでない。日陰の地面は凍てつき,雪さえもちらつきかねない頃である。 「こんな季節に咲いているもんか」 こんな思いでなんどか空振りの探索を続けたあげく,セツブンソウにはじめて出会ったのは20年近く前の2月8日。それも満開を少し過ぎていた。 愛知県では特に花期が早く,このあたりの自生地では例年2月3日の節分の頃,満開になっている。いつかスキーの帰り道,ちょっと立ち寄ってみたら,もう花が咲いていたこともあった。これは1月15日ごろだったと思うが,別の年には正月3ヶ日にもう花が咲いていたという情報もある。 まだまだ本格的な春には間があるが,日差しは春めいてくる頃である。 明日は立春。春が待ち遠しい。
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【ひとくちメモ】 愛知県から長野県南部にかけてのセツブンソウの自生地を線で結んでいくと,ちょうど中央構造線とほぼ同じ線を描くことができる。中央構造線沿いには,蛇紋岩や石灰岩が露出しているところが点々とあり,これと何らかの関係がありそうだ。この地域以外でも,埼玉県秩父地方,兵庫県から京都府にかけての地域,岡山県西部,三重県鈴鹿山系など,石灰岩や蛇紋岩地帯の周辺に多い。 これに関する詳しい研究は知らないが,セツブンソウの自生地の多くは,地表が薄く落ち葉をはがすと礫がごろごろしているようなところである。地質と直接の関係があるかどうかはわからないが,セツブンソウに適した環境がこういった地質のエリアにはできやすいのかもしれない。
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【見わけ方】 セツブンソウはキンポウゲ科に属するが,日本には近い種類はほかにない。分布は関東から西の本州だが,点々と自生地があるに過ぎず,古い時代に栄えてとりのこされた植物であることを示唆する形である。 大陸にはよく似たチョウセンセツブンソウShibateranthis stellata (Eranthis stellata)がある。ウラジオストック周辺の落葉樹林では,ウラホロイチゲやキタミフクジュソウと群落を作っているが,この植物が春一番の花であるのは,日本と同じである。
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