フォトエッセイ(野の花365日のセイヨウアブラナより) |
私たちが小学校に入学した頃,国語の教科書の1ページ目に,四季の里山の移り変わりが描かれていた。春のカットのある区画はレンゲソウのピンクに,そしてある区画はアブラナの黄色に塗られていたのを思い出す。 現在では,そんな風景は昔語りになってしまった。アブラナが採油用として栽培されていたのは1950-60年ごろがピークで,現在では観光用を中心にわずかが栽培されているに過ぎない。もっぱら,河川敷を埋め尽くす野生の植物と化してしまった。 もともと野生の植物ではないので,生態系の混乱を心配する必要はないが,それにしても子供の頃に身についた季節感を喪失するのは,なにかしら心の土台を失うようで不安だ。 中国の四川省の奥地に行った時,急斜面に開かれた段々畑で,アブラナが栽培されていた。車も耕運機も使えぬ畑をこつこつと耕す人を見て,なぜかいいしれぬ安堵感をおぼえたのは,そんな気持ちの裏返しだろうか。 2月になると,各地の観光農園から菜の花の便りが届く。一日も早く春に出会いたい気持ちと,菜の花を見れば,失ったふるさとを取り返せるような気もちに後押しされて出かけてみるが,作り物のように整然と花を咲かせられたアブラナの花壇には,どうしても中国の奥地で感じたような郷愁を抱くことができない。
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【ひとくちメモ】 「セイヨウ」と名がつくものがあるのなら,在来のアブラナもありそうだが,実は,本当の意味でのアブラナの在来種はない。 日本で9世紀ごろから栽培されていたのは「セイヨウ」のつかないただのアブラナだが,これとてもユーラシアから中国を経て日本に伝わったもので,日本の野生種ではない。 アブラナ類の栽培はもっぱら油を採るためだが,その後明治になってヨーロッパから収量の多いセイヨウアブラナが導入され,栽培されるものはこれに切り替わった。 セイヨウアブラナは,アブラナとキャベツの雑種起源といわれている。
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【見わけ方】 現在の日本で春になると河川敷を埋め尽くす菜の花と呼ばれるのは,ほとんどがセイヨウカラシナとセイヨウアブラナだろう。セイヨウアブラナの方が,花がひとまわり大きいので,遠くから見ても慣れれば見当がつく。セイヨウカラシナは,葉の基部が茎を抱かないが,セイヨウアブラナは茎を抱くのでその点が明確なポイントになる。 ほかにも,ハクサイやカブなど,アブラナ科の多くの野菜は似たような花を咲かせるので,春になると農地の隅で花を咲かせていることが多いが,花でこれらの野菜を見わけるのはなかなか難しい。 詳しくはアブラナの仲間(会員のみ)へ。
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